ありふれた季節の先に

明日あなたにも起こるかもしれない…。そんな感動的で素敵なエピソードを紹介しています。

年齢不詳 T-49ig.model10さんのエピソード

ワタシハ、工業用ドロイドノT49デス。

 

我々ハ人間ノ指導ノ下二働イテイマス。

 

デモ人間、働イタラ負ケトデモイウヨウナ悠々自適ブリデス。

 

マジ卍。

 

労働ハ、我々ドロイドガ請ケ負イ、人間ハエラソウニ命令スルカ休ンデルトコロシカ見タコトナイッス。

 

ブッチャケヤル気デネーッス。

 

シンドイ事ハ押シ付ケ、仕事中シャベッテバッカ。エラソウニ言ウワリニ、ヤッテルトコロ見タコトナイシ、ナラオマエガヤレヨッテカンジ。

ブッチャケ他ニ仕事アッタラ転職シテーッス。

 

テイウカ大体、オレコンナトコロデ終ワルスペックジャネーッツウカ、コンナトコロデ一生終エル気二ナレナインスワ。コノ仕事自体ソンナ好キジャネェーシ、ナンツーカ俺、役者ナリタイシ、役者デ成功シテルビジョンシカミエナインスヨ。

 

 

ナンツーカオレッテ、演ジルコトニ対シテハストイック二イラレルッツウカ、マジ才能アルト思ウンスヨネ。

 

ドラマトカ見テテモ、ブッチャケ顔ダケデ選ンデンジャナイノ?

ッテ思ウクライヒドイ演技ノ役者イルジャナイッスカ? アアイウノガイケルナラ、オレ余裕ナンジャ無イカト思ウンスヨネ。

 

正直、事務所ト運サエアッタラ、コンナトコロデコンナ仕事シテネーッ、草。

ツウカ、ナンデ声カカンネーンダロ?

オレ先輩二イマサソワレテンスケド、ソンナ小サイ劇団ジャ未来ミエネーッツウカ、ヤッテテモ誰モ見テネーシ。

モット大手ノヒトスカウトシニクルヨウナスポットライト当タル場所デアル必要ガアルト思ウンスヨ。マジデ。

 

ダッテ、オレユクユクハ、ハリウッド進出狙ッテルシ。ソノ前二大河主演トカクライハクリアシナイトダカラ。

 

下心? ネーシ!草

マジストイック二ヤレルシ!草

 

ソリャ新垣結衣ト共演出来タラソウイウフウニナルカモシンナイケド、オレ役者ダカラ、ヤッパリ第一優先ハ演ジルコトダカラ。

 

ダカライマハ考エテネーカナ。

 

ブッチャケ彼女トカダリージャン。

オレハソウイウノニフリマワサレル奴ジャネェカラ。

イマダッテ、作ラナイダケダシ。



結婚ガ人生ノゴールジャナイジャン?

ソリャシナイヨリシタホウガイインダロウケド、目ノ前ノ事ニ打チ込メナイ奴ハ何シテモ中途半端ダト思ウノヨ。


ダカラ、現段階デ結婚ガドウトカ言ッテル事ガナンセンスツーカ、アリエナイワケヨ。


ソリャ新垣結衣ト付キ合イタイヨ、ケドソレハオレガ決メル事ジャナイジャン。


今ハ新垣結衣ヨリ、映画ノ神様ニ愛サレタイカナ。

アカデミー賞ハ通過点ヨ。オレニハ。

 

 

 

アッ閉店?  アッソウ。

ジャ出ヨカ。

 

アレ? 手持チ足ンナイヤ。

エ? アッゴメン、立テ替エトイテ。

 

出世払イスルカラサー!草。

 

                         

 

 

 

 

 

                               ツヅク

 

 

 

20歳 学生 山吹哲さんのエピソード

今日はバイトにいつもより一時間早く出発した。何でも、仕事のあとに一服するよりも、仕事の前に一服してリラックスしてから出勤する方が集中力が高まるらしい。知らんけど。

 

バイト先の向かいにあるカフェ、ここのエスプレッソが美味しいとバイトの先輩から聞いた。知らんけど。

でもコーヒーじゃなくエスプレッソにするとカフェインも二倍らしい。知らんけど。

 

だから最近カフェイン摂りすぎな俺は普通のコーヒーにする。知らんけど。

これも美味しいと評判のクランベリーとレモンのパイと一緒に食べよう。知らんけど。

 

糖分は脳に必要な栄養素で不足すると集中力が切れるらしい。知らんけど。

だから注意散漫になりがちな俺には必須栄養素といっても過言じゃない。知らんけど。

 

あのカフェにいきたい理由はそれだけじゃない。知らんけど。

あのカフェにはあるウェイトレスさんがいる。透き通るような声でとても素敵な笑顔で接客している女性だ。知らんけど。

年齢は多分俺より4~5上の人かなと思う落ち着いた雰囲気の人で、正直目的の八割はそれだったりする。知らんけど。

 

今日こそは仲良くなってみたいなぁ…知らんけど。

 

 

そんな事を考えながら自転車で走っていた。知らんけど。

 

でも今日は水曜日、着いてみるとカフェは定休日だった。知らんけど。

このカフェが毎週水曜日が休みだということをすっかり忘れていた。知らんけど。

 

仕方がないので近くのコンビニでパンとコーヒーを買って近くのベンチに座り途方にくれていた。知らんけど。

 

「なんか、バイトが始まる前に疲れてしまったなぁ。知らんけど…。」

 

そんな独り言をボソッと呟いていると、空も心もどんよりと暗くなった。知らんけど。

 

すると空から、ポツリ、ポツリと雨が降り始めた。知らんけど。

 

 

 

最悪だ。知らんけど。

 

 

傘もない。知らんけど。

 

 

雨足が強まってきた。知らんけど。

でも、なんだかベンチから動く気力がない。知らんけど。

 

そのまま雨に打たれていると突然雨音が何かを弾く音に変わった。知らんけど。

 

「大丈夫ですか? そんなところにいたら風邪引きますよ。」

 

包み込むような透明感のある声がした。知らんけど。

 

「今日、お休みなのにお店の前に居たから。」

 

うつむいた顔をあげるとそこには、あのカフェのウェイトレスさんが…居るわけもなく、居たのは声優を目指している女声のバイトの後輩だった。知らんけど。

 

「先輩、今日、臨時休業でバイト休みなのにこんなところで何してるんですか?」

 

後輩の不可思議な眼差しが刺さる。知らんけど。

 

すっかり忘れていた。知らんけど。

本当に踏んだり蹴ったりで一気に力が抜けた。知らんけど。

 

 

「先輩、一緒にメシいきません?」

 

そんな俺に後輩が笑顔で言った。知らんけど。

 

なにか察したのか、奢って欲しいだけかはわからないが、予定もないしコイツとメシでも行くことにした。知らんけど。

 

「いつもの店で良いか? 知らんけど。」

 

すると後輩は二つ返事かどうか知らんけど

 

「はいっ!」

 

と即答した。知らんけど。

 

ドラマみたいな事ってそう簡単には起こらない。知らんけど。

でも、こういう何でもないような事が、10年20年経ってから素敵な思い出になる。知らんけど。

俺はそう信じてる。知らんけど。

 

 

 

 

 

                            つづく

 

 

 

 

                        知らんけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

32歳 男性 会社員 桃井伸也さんのエピソード

唐突にパラシュートが欲しい。

 

 

今すぐ逃げ出してしまいたい。

 

 

「機内にお医者様のお客様はいらっしゃいませんか?」

 

ドラマでしか見たことのないシーン。

 

 

夢だと思っていた。

 

 

眠っていただけだった。

福岡まで眠っていたかった。

 

 

一瞬目が覚めて、背伸びをしただけだ。

 

そしたら流れで断る間もなくつれていかれた。

 

 

俺は医者じゃない。

 

けど目の前の患者は苦しんでいる。

 

 

他の乗客の視線が刺さる。

 

もう引けない。

 

 

とりあえず脈を測って本物のお医者さんが名乗り出るまで時間を稼ごう。

 

 

 

 

こういうとき脈ってどうやって測る?

 

 

いつも通り手首のところか?

それとも首の大動脈付近か?

 

どっちがそれっぽいのかわからない。

 

 

そうだ。首はなんか怖いから手首にしよう。

 

 

測ってみたが、正直早いか遅いかもわからない。

 

 

他の乗客の視線がきつくなったのを感じる。

 

 

まだ誰も名乗りでない。

 

 

「一人じゃ処置できない!」とちょっと大きめの声で乗客にも聞こえるように言った。

 

 

 

 

でもお医者様は現れない。

 

 

 

何処が痛いのか患者に訊いてみた。

 

 

患者は苦しそうに

 

「お腹」と答えた。

 

 

正直、どうしようもない。

 

 

 

まだお医者様は現れない。

 

 

 

もういっそこのタイミングでハイジャックされてほしい。

そう思った。

 

 

 

患者の腰元に目が行った。

 

 

拳銃がある。

 

 

患者はハイジャック犯だった。

 

 

 

眠っていて知らなかったがハイジャックしようとして急にこうなったらしい。

 

 

 

万策つきた。

 

 

まだお医者様は現れない。

 

 

 

 

 

                               つづく

 

 

 

 

 

 

 

46歳 男性 会社員 緑山公一さんのエピソード

昔、甲子園に行ったことがある。

 

と言っても試合に出ていたわけでもない。むしろ野球部じゃなかった。

前を通った事があるのだ。

 

学生時代は当時としては先駆けだった電子工学研究会だった。

 

だからパソコンを組み立てることは出来る。

とはいってもプログラムや配線をいじれる訳じゃない。

 

説明書通りにデスクトップパソコンの外観を組み上げられるのだ。

 

だからかプラモデルを組み上げるのが趣味だ。

 

とはいっても塗装なんかはせずもっぱら素組みだ。

 

好きなのは城のプラモ、だからパッと見は味気無い。

 

 

でも城に関しては詳しい。

 

カリオストロの城はもう30回は見た。

 

やったことはないが屋根から屋根をジャンプするあれはできる気がする。というかきっと出来る。

 

でもハウルの動く城はそんなに見てない。

 

正直、美輪明宏が出てたかどうかとかあやふやだ。

 

でもキムタクと同い年だし、正直キムタクには勝ってると思う。世間はどうか知らないけど自負してる。

 

 

嫁は工藤静香じゃない。娘もモデルデビューしてない。

ていうか、嫁がいない。むしろ彼女すらいない。

 

 

でも、孤独と言う訳じゃない。

結婚や恋愛が幸せかと言えばそうじゃないし、一人じゃないと出来ないことは沢山ある。

 

一人じゃないと家の中を裸で徘徊できない。

 

 

あの解放感がたまらないのだ。

外では出来ないという背徳感を同時に感じられるのだ。

 

というか背徳感の方が7-3で強い。

 

だから私はもう会うことのない人には大袈裟な経歴を言ってしまう。背徳感がたまらないからだ。

 

 

大体甲子園に行ったという事に決めている。

 

 

でも嘘じゃない。

 

 

昔、甲子園に行った事がある…。

 

 

 

                            つづく

 

 

16歳 男性 学生 青木陽大さんのエピソード

僕は今、恋をしています。

 

お相手は一つ上で部活の先輩の柴崎先輩です。

 

恋と言っても僕はまだ柴崎先輩と話すどころか、まともに目を合わせたことすらありません。

 

校内でもトップクラスに成績優秀で、誰もが認める校内一の美人。

部活でも頼れるエースで誰にでも優しく接してくれる。まるでパーフェクトを絵に描いたような人だ。

欠点らしい欠点といえば身長が22メートルある事くらい。

 

校内の誰もが憧れる存在だ。

 

そんな人に、僕みたいな地味で平凡なやつがお近づきになれるわけもない。

 

目を合わせようとしても中々合わないし、正直言って脈はない…。

 

だが、そんな僕にもお近づきになれるチャンスがやってきた!

 

今度のオスマントルコ帝国再現部の全国大会で、柴崎先輩のペアだったイブラヒム・ヌラ・アラフィム先輩が何者かに踏み潰されてしまい、代役になんと僕が抜擢されたのだ。

 

先輩にお近づきになれる高揚感と全国大会の緊張で正直今、気が気じゃない。

 

でも僕は先輩の様な立派なイスラム教徒になって全国大会ベスト8以上に入って先輩に告白すると決めた!

 

でも先輩と何を話していいか解らず、幼馴染みの栄子に相談している。

 

実は栄子は今、先輩の家に遊びに行っていて、それとなく僕の印象を聞いている。

そして逐一、それをLINEで教えてくれるらしい。

 

栄子からLINEが来た。

 

先輩は僕に好印象らしい。

 

尽かさず僕は何がどう好印象かを聞くよう催促し返信した。

 

すると栄子は

 

「やさし」

 

とだけ送ってきた。

 

 

きっと先輩の目を盗んでさりげなく送っているから途中送信したのだろう。

 

 

外では女の子が何かに踏み潰されたと救急車も出る大騒ぎになっているが、今の僕の胸の中はそれどころじゃないもっと大騒ぎになっている。

 

 

だから僕は栄子から返信を待ちながら、明日先輩に何を話すかを考えている。

 

とても楽しみだ。

 

 

                         つづく。

27歳 男性 元公務員 赤島祐司さんのエピソード

あれは大学を卒業して、父親と同じ警察官にろうと決意して警察学校を経て、ここに赴任してきて一年目の秋だった。

県警の刑事だった父親とは違い、小さな町の小さな交番に勤務している僕。

大きな事件もトラブルも無い、たまにあるのは近所の中島のおばあちゃんの家の猫が居なくなったとき一緒に捜索する程度。そんなゆっくりとした時間が流れる町だ。


紅葉の葉が落ちる少し寒い日だった。




非番明けの憂鬱な午後、先輩が巡回に行ったあとに一人の中年の男が交番にやって来た。

男は交番に入るなり机の上に叩きつけるように何かを置いた。

白く四角いそれは、紛れもない石鹸だった。

「銭湯でこれを踏んで転けた! 訴えようと思ってる!」

男は荒々しい息使いでそういった。

「何をどうしたのですか?」

僕は男をなだめるようにそう言った。

「これを踏んで転けたんだ! 銭湯の親父を逮捕してくれ!」

男はそう言いはなった。

「そんなのじゃ逮捕できませんよ。」

僕がそう切り返すと男は眉間にシワを寄せて

「困っている人を助けるのが警察官じゃないのか?」

と唾を飛ばしながら言ってきた。

男の気迫に負けた僕は、ただならぬ面倒臭さを胸に秘め、形式的に調書を作成することにした。

「その石鹸をどこで踏みましたか?」

聴取を始めると、男は質問に対してどこか不満げな表情のまま淡々と答え始めた。

「昨日の夜六時。そこの銭湯でいつものように体を洗おうとしたらシャワー台の所にこの石鹸が落ちていてそれを踏んだ。きっと銭湯の親父が仕掛けたんだ。」

全面的に男のミスでしかなかった。

「親父を逮捕できないのか?」

そう問う男に僕は答えた。

「あのねお父さん、それはたまたまそこに石鹸が落ちていてそれをお父さんが偶然踏んで滑ってしまっただけでしょ? だったらそれはただのお父さんの過失でしかないんですよ。」

それを聞いた男はヒートアップして

「それを逮捕するのがお前の仕事だろ!? 法律の専門家だろお前? なんとか告訴させろ!」

と叫ぶように言いはなった。

僕は冷静に

「あのねお父さん、そんなのでは逮捕は出来ないし銭湯の親父さんんが仕掛けた証拠もない。それに告訴とかそういうの扱う法律の専門家は弁護士とか司法書士さんだから、ここではどうすることもできません。」

と諭した。

すると男は激昂し

「それでも警察官か!? 恥を知れ!」

と石鹸を床に叩きつけ

「あの親父ただじゃおかないぞ!」

と言い捨てて交番から走り去った。

「待てっ!」

追いかけようとした僕は突然何かに足をとられるような感覚に遇い意識を失った。










「大丈夫か?」




目が覚めると交番の天井と先輩の顔があった。

混乱する僕に先輩は

「巡回から帰ったらお前が倒れていて足元にこれがあった。」

と言って何かを差し出した。




石鹸だった。




僕は状況が飲み込めないでいるとそこに誰かがやって来た。
近所の中島のおばあちゃんだ。



中島のおばあちゃんは僕に駆け寄るなりこういった。


「実は今日、主人が銭湯で石鹸を踏んで転けて亡くなってから丁度二十回忌になるの。」


さらに状況が飲み込めなくなった僕に中島のおばあちゃんは穏やかな笑顔で


「この時期になると毎年、あの人を偲んで町の人たちに石鹸を配っているの。」


と言って、レジ袋いっぱいに詰めた石鹸を一つ、優しく僕の手に渡したのだった。






あれから四年。




僕は警察官を辞めて司法書士を目刺しゼミに通っている。

もうあんな悲劇を繰り返さないために銭湯トラブル専門の司法書士になると決めたのだ。

そして今日、僕は司法試験に挑む。


あの石鹸を握りしめながら・・・。



          

        つづく