ありふれた季節の先に

明日あなたにも起こるかもしれない…。そんな感動的で素敵なエピソードを紹介しています。

32歳 男性 会社員 桃井伸也さんのエピソード

唐突にパラシュートが欲しい。

 

 

今すぐ逃げ出してしまいたい。

 

 

「機内にお医者様のお客様はいらっしゃいませんか?」

 

ドラマでしか見たことのないシーン。

 

 

夢だと思っていた。

 

 

眠っていただけだった。

福岡まで眠っていたかった。

 

 

一瞬目が覚めて、背伸びをしただけだ。

 

そしたら流れで断る間もなくつれていかれた。

 

 

俺は医者じゃない。

 

けど目の前の患者は苦しんでいる。

 

 

他の乗客の視線が刺さる。

 

もう引けない。

 

 

とりあえず脈を測って本物のお医者さんが名乗り出るまで時間を稼ごう。

 

 

 

 

こういうとき脈ってどうやって測る?

 

 

いつも通り手首のところか?

それとも首の大動脈付近か?

 

どっちがそれっぽいのかわからない。

 

 

そうだ。首はなんか怖いから手首にしよう。

 

 

測ってみたが、正直早いか遅いかもわからない。

 

 

他の乗客の視線がきつくなったのを感じる。

 

 

まだ誰も名乗りでない。

 

 

「一人じゃ処置できない!」とちょっと大きめの声で乗客にも聞こえるように言った。

 

 

 

 

でもお医者様は現れない。

 

 

 

何処が痛いのか患者に訊いてみた。

 

 

患者は苦しそうに

 

「お腹」と答えた。

 

 

正直、どうしようもない。

 

 

 

まだお医者様は現れない。

 

 

 

もういっそこのタイミングでハイジャックされてほしい。

そう思った。

 

 

 

患者の腰元に目が行った。

 

 

拳銃がある。

 

 

患者はハイジャック犯だった。

 

 

 

眠っていて知らなかったがハイジャックしようとして急にこうなったらしい。

 

 

 

万策つきた。

 

 

まだお医者様は現れない。

 

 

 

 

 

                               つづく